第2回ホンヨモ!クラブ 入選作品
ツギハギ姫と波乗り王子
「ツギハギ姫と波乗り王子」桜井亜美・著
永井和寿さん (男 35歳)

心覗かれているよう

 人を信用する姿は美しい、と人はよく言う。確かに疑うより、人を信用して生きていきたいと誰もが思う。だけど心に一度でも深い傷がつくと、人は人を信用することがなかなか臆病になってしまう。それが恋愛面ならばなお更のこと。どこかで「きっとこの人は裏切る」と思っている自分が、心の底のどこかに隠れている。その傷がトラウマとなって、一生涯その人を苦しめる。

 「あたしが好きじゃない人はあたしに優しい。好きじゃない人はあたしを傷つけない…だから好き。好きになってしまった人は、いつかあたしを嫌いになる。だから嫌い」 主人公・杏のこの言葉は、一度傷つけられた人の心をよく表している。杏もかつて信用していた好きな人から突然の別れを突きつけられた経験を持つ。

 そんな杏の前にリクというプロサーファーを目指す男が現われる。最初は拒絶していた杏は、やがてリクと同棲をはじめる。少しずつ心を開こうとするが、幾度かの刺激で二枚貝のように心を閉ざしてしまう杏。

 人は誰しも好きで人を疑ったり、人を遠ざけたりしている訳ではない。ただ反射神経的にそうしてしまうのだ。その懊悩。人はパソコンなんかではない。簡単に記憶を削除できない心というものを宿しつつ、人は生きている。この小説を読み終えた時、まるで今の僕の心の深きに沈殿している何かをすっかり覗かれているようだった。そしてできることなら、人は信じて生きていきたい。そう思えた。

「ツギハギ姫と波乗り王子」桜井亜美・著
ななさん (女 23歳)

爽快さと裏腹の日常

 草むらに横たわる姫の瞳はどこか遠くを見つめ、こころを見透かすような本心を射抜くような色をしている。その瞳を通して見る現実世界は、どんな色に映っているのだろう。

 丁寧な描写と豊かな感性で表現される海。多彩な海の表情は、まるで自分がその場面に居合わせているかのような錯覚をもたらす。海辺の街を主軸に描かれるこの物語は、爽やかな潮風を伴う。そんな爽快さとは裏腹に、ツギハギ姫の日常は緊張に満ちたものだ。オガクズを詰め込んだ見せかけだけの身体の芯には、傷つくことに極端なほど臆病な少女のこころが潜んでいる。それでも自分の居場所を求め、勇気を出して手を差し出す。あるとき波乗り王子とこころが通じ、距離を縮めたのはほんの束の間にすぎなかった。やがてツギハギがほつれてオガクズがこぼれ落ちるたびに、あぁ自分の中身はオガクズだったと思い知らされる。そしてツギハギが大きくほつれてしまわないように、またきつくほころびを繕う。そして二度と誰にも近づかないとこころに誓う。

 他人に自分のすべてを見せること、手に入れたぬくもりを再び失うこと、相手を信じきること。そんな怖さに自分は真っ向から向き合えるだろうか。受け入れられたくてたまらないのに拒絶されるのが怖い。一見してアンビバレントな感情に見えるが、実は誰もが少なからず抱いている不安ではないだろうか。

 あなたは最愛の人に臆することなく、自分のすべてをさらけだせますか?

 
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