第2回ホンヨモ!クラブ 入選作品
東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」リリー・フランキー著
山本聡子さん (女 27歳)

切なく愛おしく

 母の子に対する愛情の深さ。母を慕う子の思い。母子の愛情、そんな一言では表すことができないほど、切なさと愛おしさに満ちた作品である。

 著者は、石川啄木の「たわむれに母を背負いてそのあまり軽さに泣きて三歩あゆまず」との短歌を引いて次のように述べている。 「大きくて、柔らかくて、あたたかかったものが、ちっちゃく、かさついて、ひんやり映る時がくる。それは、母親が老いたからでも、子どもが成長したからでもない。きっと、それは、子供のために愛情を吐き出し続けて、風船のようにしぼんでしまった女の人の姿なのだ」と。

 母に愛され、その優しさに包まれて育つ間、ともすれば人はその母の偉大さに気づくこともなく生きている。わがままに母を傷つけ、自身を大切にすることもできずに、ただ生きてゆく。

 どれほど深い愛に守られて生きてきたか、感謝することもなかったと気づいた時に、人は泣くのだろう。どれほどの想像をめぐらせようと、子を思う母の情を推し量ることはできないのかもしれない。しかしそれを思う時、人は他者に対しても優しい目を向けることができるようになるのではないだろうか。

 幸せな、豊かな人生とはなんであるのか。素朴に、懸命に、笑顔で生き抜く母の姿こそが、その大きな力にになることに気付かされる作品。

「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」リリー・フランキー著
宮木良人さん (男 39歳)

疾走感に脱帽

 これほどおもしろく、哀しく、そしてリアルに筑豊、東京、母親を描いた作品を他に知らない。傑作である。

 ボクが育った筑豊は、福岡県のおなかの部分にある。五木寛之の『青春の門』もここから始まる。石炭で日本の近代化を支え、近代化の完了とともに捨てられたまちである。極めて高い失業率と生活保護世帯数、急速な過疎化。東京の繁栄とひきかえに矛盾を抱え込まされた地方の象徴のようなまちである。そこの人々は、気性は荒いが義理人情を重んじ竹を割ったようなさっぱりした―川筋気質―人が多い。だが、多くの若者はこのまちを捨て出ていく。

 本書には、随所に地方出身者の東京観がちりばめられてあり、どれも核心を突いている。幻想と虚飾に全国から引き寄せられ、ある者は転落し、はじかれる。ボクの無職時代はその典型である。

 やりたい放題のオトンと別居してボクを育て上げたオカン。ノスタルジックに語られる30、40年代だが、夫や姑に苦しむ妻は今より多かった。しかし、子供には明るくやさしい母親。しかも、彼女は生き様のみならず死に様まで子供に教える。すさまじい闘病生活と死。全てを使い切って母親は子供に大きなものを遺していく。

 本書の疾走感とメリハリは、読み手を圧倒的に惹きつけ終局まで一気に読ませる。はじめて女性(?)に触れる場面など笑える場面も多い。しんみりした読後感も非常によい。脱帽である。

 
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