第2回ホンヨモ!クラブ 入選作品
デイドリーム・ビリーバー
「デイドリーム・ビリーバー」増田久雄・著
長尾幸子さん (女 54歳)

不快感 郷愁と羨望に

 乾いた心の中に緩やかに優しさが染み込んできた。私は、裕太と幸次の最初で最後の旅を二人とともに辿る。幸次の死が胸を塞ぐ。「人の一生って毎日が夢の中なんだね」と幸次が耳元で囁く。気がつけば私の頬を涙が伝っていた。読み始めた段階では、裕太に苛立ち、幸次を不快に感じていた。俳優なんて戯言のような夢に踊らされて上京、何度も幸次に騙されているのに憎めないで幸次と同居を始める底なしのお人好し裕太。故郷北海道に紀子という想い人がいるのに、目の前に現れたひとみに心奪われ失恋し、あげくに紀子も失う典型的な優柔不断男裕太。ボクサーの夢破れた幸次も地道とは対極のぐうたら男。こんな若者二人が目に浮かんでいたはずなのに、読み進めるうちに私の中の苛立ちと不快感は柔らかな郷愁と羨望に変化していった。裕大の理解者の新井や団塊世代の男たちの、生の悲哀を経験したが故の温かさに癒され、登場人物たちの人生を投げない強かさに元気づけられた。裕太や幸次の夢にかける姿に若き日を重ねた。この作品は、平成、21世紀という新しい時代を迎えた日本社会をリアルタイムで生きる私達に喪失してきたものを思い出させでくれる。そして、舞台となった北海道から沖縄までの、日本中でデイドリームを生きる人々を、心優しき登場人物たちの温もりと善意が包み込む。読者はあらゆる年齢層の登場人物の中に自分自身を発見し「もう少し頑張ってみようか」という気持ちになる。

「デイドリーム・ビリーバー」増田久雄・著
須田厚代さん (女 53歳)

さわやかに泣いた

 ミッキー・ドレンツのささやく声がラジオから聞こえてくる。甘く切ない「デイドリームビリーバー」。この曲が流行っていたころ私は大人になりかけていた。生きていることがつらく悲しく「なぜ産まれてきたのか」まわりをうらんでみたりしていた。でもある日親や兄弟以外の人に愛されていることを知った。産まれて初めて他人に愛されていることに混乱しながらも生きることに希望を持ち始めてた。

 人との出会いは不思議だ。世界中には何億という人が生きているのに自分が出会えるのは一生の内で何人なんんだろう。そのなかでもその人の人生に寄り添うことになるような出会いは偶然というより運命だといえる。裕太は何万という人の集まる歌舞伎町で幸二と出会い寄り添い生きて人生のフィナーレに立ち会う。まったく正反対のふたりが夢の中で生きることに格闘している。幸二は南の海をみながら夢から現実へ帰って行くとき裕太の背中で「いい夢をみたな」と思えていたんだろう。裕太が居てくれたから。 私がこの本と出会ったことも運命。題名にひかれて手にとり読んでいくとまるで映画のように場面がおりてくる。著者の経歴をみてなるほどと納得した。男同士の友情を題材にした小説なんて初めてだったがさわやかに泣かせてくれた。そして夢の中で生きていくのも悪くないと思った。

 
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