7ISBN:4620903698
佛教藝術 339号
ISBN:978-4-620-90369-9
佛教藝術學會:編
毎日新聞社
定価:本体3,200円(税別)
国内のみならず、海外からも高い評価を得ている(国際逐次刊行物番号:ISSN 0004-2889)1948年創刊の東洋美術と考古学の研究誌。斯界の泰斗から気鋭の研究者、さらには若き学研の徒まで、毎号多彩な執筆陣による研究成果を掲載する。今号は次の4篇を収載。
◇「滋賀・天満神社天王像について――鉈彫成立論との関連で――」(奥健夫:文化庁文化財部美術学芸課主任文化財調査官)
滋賀・天満神社天王像についての論は、近年その存在が知られるようになった同社の天王像が、本来同社の主神であったとするものであるが、その所在を文献としては「御託宣記」により確かめ、天部形を神体とすることについては、『日蔵夢記』等の記述から推論。このような初期天神像を考える上での参考例として京都・観音寺の伝十一面観音像や同・朱智神社の牛頭天王像を挙げる。副題の鉈彫との関係については、以上の詳細な考察のなかから、鉈彫が主に用いられる十一面観音の信仰から疫神・雷神に及び、四天王の踏まえる邪鬼の表現にいたることに言及している。
◇「鎌倉時代前期の僧綱仏師について――仏師善慶の僧綱補任を中心に――」(石井千紘:青山学院大学大学院博士後期課程)
鎌倉時代前期の仏師善円の善慶への改名とその法橋叙位との時期的な関係に注目し、その意味上の関係と善円の出自に迫ろうとする論考である。まず鎌倉前期の僧網仏師を通観して、彼らが院・円・慶の三派に属し、さらにその名前にそれぞれの派に継承される1字が必ず入っていることから、その1字の入る名を持つことが僧網補任条件の一つであり、善慶への改名もその条件を満たすためのもので、それは善円が慶派正系仏師の出身でなかったことを意味すると推測する。当時の仏師の補任に、勧賞による補任、僧事による補任があったことを指摘し善慶の補任がどんな造像によったかを考える上での手がかりを提供する。
◇「古代の讃岐国分寺・国分尼寺について」(松本忠幸:元讃岐国分寺跡発掘調査担当者)
本誌303号掲載の「出土瓦から見た讃岐国分寺の創建」(2009年)の続編。前稿以降に明らかになった安芸国分寺や東大寺法華堂に関わる成果をふまえ、讃岐国分寺創建時の軒丸瓦にみる横置型一本作り採用年代を、平城宮瓦編年に照らして限定し、讃岐国分寺の造営工事が天平9年の造仏詔を受けて開始されたと考える。国分寺の造営開始年代に関しては、各国ごとの考古資料を踏まえて、個別に検討・分析できるようになった。讃岐国分寺創建時には、南都七大寺式ではなく平城宮式の鬼瓦、大型軒丸瓦(鳥衾瓦)、軒丸瓦一本作りの技法など、讃岐国の他の古代寺院にはない中央的要素を一括導入している。そのことを根拠に年代を絞り込むという方向で検討をおこなっている。
◇「〔研究ノート〕「大梅山長福寺所蔵『仏涅槃図』に描かれた鳥類について――浄土寺本・本覚寺本との比較を踏まえて――」(藤元晶子:一橋大学非常勤講師)
藤元裕二氏執筆の「大梅山長徳寺所蔵『仏涅槃図』再考」(本誌338号、2015年)で、課題として残された画面下辺に描かれた動物、殊に鳥類の鳳凰・迦陵頻伽を含め全22種、計27羽のうち主要な種について、先行研究での当否を見極めながら、その同定と根拠、分布及び類似作例などで検証、長福寺本仏涅槃図の特質についての試案を提示。鳥類の詳細な分析から、制作地、制作年代を推定し、日本の中世における中国画理解の在り方、いわゆる「地方化」の様相についても触れている。
<B5判/96頁>