この四月、埼玉県立高校の女性教諭が、自分が担当する新一年生の入学式に出ずに、同じく他校に入学した我が子の式に出席した。
著者が自らのブログに批判的なコメントを載せたところ、非難の声が多く寄せられたという。現場教師から評論家に転身して、自分の意見が世論と乖離したのは、これが初めてで、非常なショックを受けたという。
Yahoo!ニュースのアンケートでは、教諭の選択が「問題だとは思わない」四八%、「問題だと思う」四四%でほぼ拮抗、埼玉県教育委員会に寄せられた意見は、「女性教諭への理解」四四%、「批判や苦情」が二九%で、圧倒的に女性教諭の選択を是とする人が多い。
著者は、これらの反応の背景にいくつかの要因を指摘する。まず親子の異様なほどの密着である。リーマン・ショックと東日本大震災を境に、親子関係が急激に変わったのではないか、という。データにも出ているし、大学で教えながら、日々感じていることだという。
さらに、職業意識の揺らぎを問題にする。非正規雇用の広まりで、仕事への愛着の度が低まっているのではないか。だから、生徒の入学式ぐらい出なくてもいい、という意見が平気で出されるようになる、と分析する。
最後が本書の核ともなる部分だが、いま教育をめぐる環境が驚くほど劣化していて、それがひいては学校や教師への信頼感の欠如に結びついているのではないか、と指摘をしている。教師たちへの管理の徹底、生徒たちへの不寛容(ゼロ・トレランス)政策の導入・拡大――生徒に向き合えずにいる現場教師の姿がレポートされる。
入口は小さな事件だが、そこからいまの日本および日本の教育の抱える問題にまで踏み込んだ本書は、読者にとって刺激的な一書になるに違いない。
第1章 ブログ炎上――論争の中身を整理する
1 尾木ママ、ご乱心!?
2 「公」をどう捉えるか
第2章 教育の商品化――――モンスター・ペアレントを輩出した背景
1 モンスター・ペアレントの生態
2 学校と教師の商品化
第3章 進む親子密着
1 大学へ押し寄せるモンスター・ペアレント
2 LINEの乱暴さ
第4章 リスペクトされない教師たち
1 子どもに向き合う時間がない
2 教師をめぐる過酷な環境
第5章 不寛容が覆う学校
1 成果主義が学校現場から奪うもの
2 「心に風を入れましょう」カード
終 章 家族主義を越えて
1 自立する教師と親
2 市民意識の成熟――子ども、保護者、学校、そして地域